月刊「計測技術」連載エッセイ(平成13年12月号に掲載)

[ある技術者の独り言]

第22回 野依教授ノーベル賞受賞に思うこと  帆進 大河

米国同時多発テロ、アフガン空爆、炭そ菌、狂牛病など、不安を募らせる負の衝撃の大きい事件が連続している中、野依良治名大教授ノーベル賞受賞決定の報道は大きな元気を与えてくれる明るいニュースであった。

発表後のインタビューや報道に触れると、分かり易い表現の中に我々技術者にとって、大いに共感する内容や深い意味を持っている言葉が多くあった。これらをもとに技術者のあり方、考え方について考えてみたい。

1.大きな成果を出すためには、まず一生興味を持ち続けられるテーマを見つけること

 野依教授が「化学」に興味を持ったのは、幼いころ化学会社の研究者だった父親に連れられて行った東レの新製品発表会の会場であったという。社長がナイロンの魚網を示し「空気と水と石炭からできている」と説明した。野依少年はあの真っ黒な石炭から半透明の繊維ナイロンができるという物質の化け方に感動し、これが化学に取り組む契機になったという。ゲーテは「興味が無くなるころ、また記憶もなくなる」といい、興味の重要性を説いている。興味は物事を推進するエンジンの「アクセル」ということができる。

2.成功とは、99%の失敗で築かれた山の上に生まれた1%の偶然といわれるほど希なもの

 野依教授は「研究生活は失敗の連続だった」「大きな発見はほとんど偶然からだ」と述べられている。授賞理由となった「」も別の実験をしていて偶然発見したものだという。しかし、この「偶然」は棚からぼた餅的に何もしないで、ただ単に幸運を待っているのではなく、興味を持って積極果敢にチャレンジし、失敗を重ねながら招き寄せたものである。成功の陰に隠れた、血の滲むような「執念と努力」の積み重ねを見過ごしてはならない。

3.負の側面を除去する画期的な技術
 授賞対象の業績は「不斉合成」である。ある有用な物質を人工的に合成しようとすると有用な物質と一緒に分子の結合が鏡に映したように対称的な物質が同量できる。人間に役立つのは半分で、残りは役に立たず、場合によっては有害になることもある。有用な物質だけを合成できる触媒の開発をした。

 20世紀までの多くの科学技術は人類に大きな利便性を与えたが、その反面、薬品の副作用、環境汚染などの負の遺産も生むという2面性を持っていた。今回の発見は負の部分を無くした画期的なもので、21世紀にはこの種の発見が多く生まれることを期待したい。ノーベル賞創設者のノーベルが発明した「ダイナマイト」は人類に大変役立っているが、その反面、殺人兵器としても使用されている。これはナイフや包丁のように、使用する人の基本的考え方によって利器とも、兇器ともなりうるからである。人間の悪心を除去して良心のみにする「思考合成の触媒」の開発はできないものだろうか。

天才とは、先天的に持って生まれたものだけで成果を出した人ではなく、生涯を通じて大きな興味を持ち続けられるテーマを見つけ、執念を持って努力を積み重ねて大きな成果を出した人ということができる。つまり、天才とは「執念と努力の人」であると言える。ニュートン、エジソン、そして野依教授もしかりである。このように考えると、若き技術者は皆、天才になれる資格を持っていることになる。

さあ、みなさん、天才を目指して頑張ろう!!