例会報告
第74回「ノホホンの会」報告

 2018年1月23日(火)午後3時~午後5時(会場:三鷹SOHOパイロットオフィス会議室、参加者:致智望、山勘、恵比寿っさん、ジョンレノ・ホツマ、本屋学問)

 今回は、リハビリ回復中の狸吉さんに加え、あいにくの大雪で致智望さんも欠席となり寂しい例会でしたが、地球温暖化への疑問やエネルギー戦略と原子力発電の是非、日本の通信費の高さ問題など、大寒波を吹き飛ばす熱い議論で、いつもながらの活発な例会になりました。

なお、致智望さんのネットエッセイ「米国首席戦略官の解任」は2月例会で発表をお願いしますので、今回のリストから外しています。逆にジョンレノ・ホツマさんの「齊宮…」は今回は改訂版なので再掲載しました。ご了承ください。

 (今月の書感)

「日本の近代を開いた産業遺産─推薦産業遺産1985-2010」(本屋学問)/「統計は暴走する(山勘)/「言ってはいけない 残酷すぎる真実」(恵比寿っさん)

 (今月のネットエッセイ)

「深刻な問題」(本屋学問)/「滴り落ちてくる恵みを待て?」(山勘)/「臭いものにフタ?「ガバナンス」」(山勘)/相撲の起源について」(ジョンレノ・ホツマ)/「宮(いつきの宮)の誕生の背景」(ジョンレノ・ホツマ)

 (事務局)

 書 感
 日本の近代を開いた産業遺産─推薦産業遺産1985-2010/大橋公雄他(産業考古学会 2011年5月20日 A5判 208ページ 会員頒価1,800円) 

2018年は明治維新から150年になる。その後の日本の発展は“世界の奇跡”ともいわれているが、実は日本の近代化成功の要因は、それ以前からすでに発展するための基礎体力が備わり、開国と同時に海外の先進技術や思想を導入してもそれらを十分に理解し、応用できる能力を持っていたからだという見方がある。

とくに江戸期の260年は、新しい時代に移行するための強固な土台を築いたという点で、世界史的にも注目されるきわめて重要な時代であった。大きな戦争もなく、絢爛豪華な安土桃山期の文化を受け継ぎ、粋で瀟洒な独特の江戸文化をつくり上げた。国民の識字率はさらに向上して、日本人の美意識や教養、倫理観はいっそう高まった。

合議制を採用した先進的な幕府行政、幕藩体制による効率的な分割統治、全国規模の治水治山、街道などの基盤整備、藩校や郷学、寺子屋など充実した教育制度、河川や運河、沿海を利用した活発な水上海運、地場産業と民間経済を結び付けた全国規模の流通と通信網、世界初の先物取引、参勤交代による文化や情報の広がりなど、同時期のヨーロッパ以上に発達した先進国家であったことは歴史的にも立証されている。

本書は、産業考古学会が創立30周年記念事業の一環として、専門分野ごとに50人余の会員が執筆にあたり、日本の近代化に貢献した全国の産業遺産を紹介したユニークな案内書である。専門学会らしい緻密な調査と検証によって掲載された産業遺産は82(2010年現在)、同学会が発足当初から国や地方自治体などの文化財指定を受けないものを中心に、保存できなければ消滅する未指定産業遺産を選び、1983年から独自に「推薦産業遺産」として発表してきた。

紹介されている産業遺産のなかには、地元以外一般にはあまり馴染みのない施設や設備も多く、本書によって初めてその役割と重要性を知るものがほとんどであるが、鉱山や港湾設備、製鉄施設、窯業工場、養蚕工場、運河や水路など一部はすでに江戸時代から稼働していたという事実に驚く。

対象とする遺産は、製鉄所や反射炉など工場建物を始め、運河や疏水など用水・水路、ドックなど港湾、橋梁、炭鉱設備など鉱山、農漁業、窯業、水車、電力、機械、鉄道、機関車、電車、バス、航空機、送信所など通信・計測器、文書、博物館、ダムや堤防など土木施設、倉庫など建築物、機械類と、ほぼ全産業を網羅する。

発電所や製鉄所、炭鉱設備、セメント工場、製油所、機械工場などは工業近代化の代表的な施設設備基盤であるが、レンガ工場、防波堤防、水路閘門、森林鉄道、製材水車、養蚕倉庫といった、まさに“縁の下の力持ち”的役割を果たした重要な産業遺産についても丁寧に解説されており、改めて日本の近代化を成し遂げた先人たちの偉業に頭が下がる。

近代化とは、こうした施設や設備、社会基盤を自前でつくり上げ、維持管理し、改良する能力を備えていなければならない。その意味で、真の近代国家として発展、存続するためにはどのようなハードウェア、ソフトウェアが不可欠なのか、世界の先進国家の歴史と比較しながら見ていくとさらに興味深い。

1871年、岩倉具視を団長に総勢100余人の使節団が2年近く欧米12か国歴訪の旅に出た。不平等条約改正の予備交渉が主だったというが、同時に欧米の政治体制や文化、工業技術、教育などを視察するために、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文ら政府要人を始め、多くの留学生や教育関係者、産業人も参加した。イギリスでのこと、最新の蒸気機関を見せられた日本人が、すでにそのしくみをほぼ理解していたことにイギリス人が驚いたという。

本書に紹介されている全国各地の産業遺産の紹介を読みながら、ふとこのエピソードを思い出した。維新後わずか5年で近代鉄道を敷設させた日本の実力は、100年後の新幹線に遺憾なく発揮されている。本書を読んで改めて、江戸時代の先進性と底力を再認識した。

(本屋学問 2018年1月7日)

統計は暴走する/佐々木弾(中央公論新社 本体780円) 

著者は東京大学社会科学研究所教授。本書のオビに「あなたは『統計』に操られている」とある。「統計」に関する真面目な本なのだが、「章立て」は、「統計はだます」「統計は盗む」「統計は迫害する」「統計は殺す」などと穏やかでない。

1章「統計はだます 詐欺・偽装編」では、統計には必ず「意図」が存在する。その「意図」を見抜けと言う。統計には「目的」があるが、それが「意図」で修正されては問題だと言うことだろう。

この章では6つの事例を挙げているが、その1つに、英国の国民投票前夜ではEU残留予想が80%、米国大統領選では主要報道機関100社の予測がほぼ全てが民主党勝利を予測したのに結果は逆になった例を挙げる。原因は調査母集団のサンプリングで、「サイレント・マジョリティ」を軽視したことにあるとする。結果として「統計はだます」ことになる。国民は「騙される」ことになる。

2章「統計は盗む 窃盗・横領編」では、嘘には「積極的な嘘」と「消極的な嘘」があるが、統計には、都合の悪いデータは使わないという「消極的な嘘」があるという。

この章の、6つの事例の1つとして、死刑制度に関して、「死刑は廃止すべきである」9.7%、「死刑はやむを得ない」80.3%という結果が出た例を取り上げている。

この例では、圧倒的に「死刑やむなし」となるが、そもそも選択肢に問題がある。前段は死刑を「廃止すべきか」どうかで賛否を問い、後段は「廃止できるか」どうかで賛否を問う、別個の問題である。こういう誘導尋問や世論操作的な企みは計量経済学や心理学では「フレーミング効果」と呼ぶ。

3章「統計は迫害する 中傷・虐待編」では、例えば「少年犯罪が増えているから少年法改正を」、「外人犯罪が増えているから入国管理を厳しく」などと統計を悪用して偏見や差別を煽るなと説く。この章では、5つの事例を挙げているが、その1つに、夫婦別氏制度について、「導入してもかまわない」35.5%、「現行の同氏制度でかまわない」36.4%という結果が出た例を取り上げている。

この例では、夫婦別氏制度への賛否がほぼ拮抗しているように見えるが、問題は、前段の賛成者は「強い意見の人」であり、後段の回答者は「弱い意見の人」である可能性が高い。仮に「強制的」「悉皆的」な夫婦別姓制度の導入への賛否を問われれば、反対者が多くなることが予想される。たとえば近隣住民が反対する立地問題のようなステーク(利害)の均衡が取れていないことが問題だ。

 第4章「統計は殺す 殺人・環境破壊編」では、統計は、特定の利害を説いたり、通説を否定するなどの大嘘を語れるだけの語彙と文法をそなえていると言う。

この章では、5つの事例を挙げているが、ここでは紙幅の都合もあり、事例紹介を省略する。「統計殺人」には、①解法を間違えたから回答を間違うという「不可逆的な遭難」、②専門家の言を鵜呑みにするような「専門性の御用・誤解」、③最初の分析から間違って変な結論に達する「終わり悪ければ始め悪し」、という特徴があるという。

総じて本書は、「内容紹介」にもあるように、「統計」とは、あくまで誰かが編集して分析したものであり、その裏には必ず「意図」が存在することを教えてくれる。これから、統計を正しく読み解き正しく使う力が必要となる。たとえ「専門家」らしき人たちの分析でも鵜呑みにせず、利害を異にする反対の意見などにも耳を傾け、自分で考え判断する必要があろう。

(山勘 2018116日)

 

言ってはいけない 残酷すぎる真実/橘 玲(新潮新書 本体780円 2016年4月20日発行)

 

商品の詳細橘 玲(たちばな あきら)。1959年生れ。作家。小説「マネーロンダリング」「タックスヘイブン」のほか、ノンフィクションも著し「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」はベストセラー。「残酷な世界で生き延びるたった一つの方法「『読まなくてもいい本』の読書案内」など、著作多数(画像はAmazonから借用しました)。

まえがき

Ⅰ 努力は遺伝に勝てないのか
1.遺伝にまつわる語られざるタブー
2.「頭が良くなる」とはどういうことか─知能のタブー

3.知識社会で勝ちぬく人、最貧困層に堕ちる人

4.進化がもたらす、残酷なレイプは防げるか

5.反社会的人間はどのように生まれるか

Ⅱ あまりに残酷な「美貌格差」
6.「見た目」で人生は決まる─容貌のタブー
7.あまりに残酷な「美貌格差」
8.男女平等が妨げる「女性の幸福」について
9.結婚相手選びとセックスにおける残酷な現実
10.女性はなぜエクスタシーで叫ぶのか?

Ⅲ 子育てや教育は子供の成長に関係ない
11.わたしはどのように「わたし」になるのか
12.親子の語られざる真実
13.「遺伝子と環境」が引き起こす残酷な真実

あとがき 注釈 参考文献 

タイトルに魅かれて飛びつきました。月刊「波」に連載した「残酷すぎる真実」を改編したもの。前書きには(予想はしていたけど)ショックな言葉が並びます。

進化生物学・進化心理学の誕生により「身体だけでなく、ひとのこころも進化によってデザインされた」と現代の進化論は主張している。喜びや悲しみ、愛情や憎しみなど世の中で起きている出来事が進化の枠組みの中で理解できる。現代の進化論は人文科学・社会科学を根底から書き換えている。これは、良識を踏みにじり、感情を逆なでする、もの凄く不愉快な学問だ。誰もが聞きたくない、知らないふりをするが「言ってはいけない」とされる残酷すぎる真実こそが、世の中を良くするために必要だ。

本書の内容は全てエヴィデンスがあり、それを巻末の文献に列記している。

私の人生は「思ったことを言う」という嫌われやすい性格だが、本書にあるようなことは私も口にするのは憚られたことです(笑)。 

容貌のタブーから一部を紹介させて頂きます。

写真から性格や未来がわかる。テキサス大の実験では髪形やファッションでは性格を反映しているという。第3者が写真を見て、性格を推測出来るという。勿論「誠実さ」「穏やかさ」「政治的見解」は外見からは当たらないそうだ。

ドイツの研究チームは「外見で知性がわかる」という事にも挑戦したそうで、それによれば、新聞の見出しと小見出しを声に出して読むことを3分ほど観察した結果で、その人の知性を正確に推測出来たそうです。

また、ノースウエスタン大の研究者は、見ず知らずの学生同士で1分間の音声付映像から、その学生のIQとGPA(学業平均値)、SAT(大学進学適性試験)を正確に推測出来たそうです。同じ実験で、音声の無い映像からも同様だったが、(映像の無い)会話の文章からは全く推測できなかった。最初の直観の的中率。教授の熱意や学問の重要性・可能性や学生の学習意欲などをかき立てるかなどの多岐に亘る教授の質を見分ける実験では、学生を2つのグループに分け、①初日の印象で評価②1週間経っての評価にしたが、①と②の評価は変わらなかったという残酷な事実。教授は1日の授業で優秀さ加減を見抜かれたわけです。即ち、直感は当たるということですね。

外見から、人の攻撃性を見分けるのも簡単。ピアスや刺青がなくて頭髪はぼやかされていても、顔を見るとこの性格は判断できるという。それは顔の幅と長さの比率で面長の顔と幅の広い顔を見せられた時、後者を攻撃的と判断する。これは平均であって、すべての人に当てはまるわけではない。幅広顔はテストステロン(男性ホルモンの一種)の濃度に関係しているのではないかと研究者は考えている。また、美人とブスでの経済格差は3600万円。美形の男性は並みの男性より4%収入が多い。容姿の劣る男性は13%収入が少ない、という研究結果もある。

(恵比寿っさん 2018年1月17日)

 日本の近代を開いた産業遺産─推薦産業遺産1985-2010/大橋公雄他(産業考古学会 2011520日 A5判 208ページ 会員頒価1,800円)

 2018年は明治維新から150年になる。その後の日本の発展は“世界の奇跡”ともいわれているが、実は日本の近代化成功の要因は、それ以前からすでに発展するための基礎体力が備わり、開国と同時に海外の先進技術や思想を導入してもそれらを十分に理解し、応用できる能力を持っていたからだという見方がある。

とくに江戸期の260年は、新しい時代に移行するための強固な土台を築いたという点で、世界史的にも注目されるきわめて重要な時代であった。大きな戦争もなく、絢爛豪華な安土桃山期の文化を受け継ぎ、粋で瀟洒な独特の江戸文化をつくり上げた。国民の識字率はさらに向上して、日本人の美意識や教養、倫理観はいっそう高まった。

合議制を採用した先進的な幕府行政、幕藩体制による効率的な分割統治、全国規模の治水治山、街道などの基盤整備、藩校や郷学、寺子屋など充実した教育制度、河川や運河、沿海を利用した活発な水上海運、地場産業と民間経済を結び付けた全国規模の流通と通信網、世界初の先物取引、参勤交代による文化や情報の広がりなど、同時期のヨーロッパ以上に発達した先進国家であったことは歴史的にも立証されている。

本書は、産業考古学会が創立30周年記念事業の一環として、専門分野ごとに50人余の会員が執筆にあたり、日本の近代化に貢献した全国の産業遺産を紹介したユニークな案内書である。専門学会らしい緻密な調査と検証によって掲載された産業遺産は822010年現在)、同学会が発足当初から国や地方自治体などの文化財指定を受けないものを中心に、保存できなければ消滅する未指定産業遺産を選び、1983年から独自に「推薦産業遺産」として発表してきた。

紹介されている産業遺産のなかには、地元以外一般にはあまり馴染みのない施設や設備も多く、本書によって初めてその役割と重要性を知るものがほとんどであるが、鉱山や港湾設備、製鉄施設、窯業工場、養蚕工場、運河や水路など一部はすでに江戸時代から稼働していたという事実に驚く。

対象とする遺産は、製鉄所や反射炉など工場建物を始め、運河や疏水など用水・水路、ドックなど港湾、橋梁、炭鉱設備など鉱山、農漁業、窯業、水車、電力、機械、鉄道、機関車、電車、バス、航空機、送信所など通信・計測器、文書、博物館、ダムや堤防など土木施設、倉庫など建築物、機械類と、ほぼ全産業を網羅する。

発電所や製鉄所、炭鉱設備、セメント工場、製油所、機械工場などは工業近代化の代表的な施設設備基盤であるが、レンガ工場、防波堤防、水路閘門、森林鉄道、製材水車、養蚕倉庫といった、まさに“縁の下の力持ち”的役割を果たした重要な産業遺産についても丁寧に解説されており、改めて日本の近代化を成し遂げた先人たちの偉業に頭が下がる。

近代化とは、こうした施設や設備、社会基盤を自前でつくり上げ、維持管理し、改良する能力を備えていなければならない。その意味で、真の近代国家として発展、存続するためにはどのようなハードウェア、ソフトウェアが不可欠なのか、世界の先進国家の歴史と比較しながら見ていくとさらに興味深い。

1871年、岩倉具視を団長に総勢100余人の使節団が2年近く欧米12か国歴訪の旅に出た。不平等条約改正の予備交渉が主だったというが、同時に欧米の政治体制や文化、工業技術、教育などを視察するために、木戸孝允、大久保利通、伊藤博文ら政府要人を始め、多くの留学生や教育関係者、産業人も参加した。イギリスでのこと、最新の蒸気機関を見せられた日本人が、すでにそのしくみをほぼ理解していたことにイギリス人が驚いたという。

本書に紹介されている全国各地の産業遺産の紹介を読みながら、ふとこのエピソードを思い出した。維新後わずか5年で近代鉄道を敷設させた日本の実力は、100年後の新幹線に遺憾なく発揮されている。本書を読んで改めて、江戸時代の先進性と底力を再認識した。

(本屋学問 201817日)

 エッセイ 
 深刻な問題 

以前、女性に悪戯する目的でわざと車をぶつけるという卑劣な事件が北海道であった。犯人はすぐに捕まり、新聞に実名が載った。するとそれを見たオカシな人間が、犯人がある町の不動産屋に勤めていたというだけで、どこで調べたのか同じ町の同名の不動産会社の電話番号をインターネットに掲載し、ご丁寧にも犯人はここの社長の息子だと書いた。もちろん、まったく無関係なのだが、またそれを信じた暇なバカ女が電話をかけた。

そのときの通話を録音した音声がテレビのニュースで流れたが、電話口で社長がいくら関係ないと説明しても、「インターネットに出ていたから間違いない。あなた、頭は大丈夫?」といい放ったオバサンには思い切り笑わせてもらった。これも“ブラックユーモア”というのだろうか。テレビ局はどうしても本人に聞かせたかったのか、音声は加工されていなかったと思う。

せめてもの救いは、最初にネットに偽情報を載せた人間が警察によって特定され、本人が件の不動産会社に謝罪したことだが、何と静岡県の学校の非常勤講師だったというから呆れてしまう。

最近も、何があったのか東名高速道路で走行中の車を無理矢理停車させ、死亡事故まで起こした大バカ野郎がいたが、この場合も出身が福岡というだけで、これまたオカシなのが福岡市の同名の無関係な建築会社の個人情報を掲載してしまい、その会社もしばらくは仕事にならなかった。

沖縄で、飛行中のアメリカ軍機から部品が小学校の校庭や幼稚園の屋根に落ちたとことがあったが、このときも「自作自演」だの「学校が引っ越せ」などと嫌がらせの電話やメールがあったという。沖縄県民の心を踏みにじる、歴史や事実をまったく知らない愚かな売国奴の理屈である。その後も機器の故障やエンジン不調で不時着した機体があったが、アメリカ軍もこんなことでちゃんと作戦を遂行できるのか。

確認もせず勝手に決め付けてインターネットに書き込むのも相当オカシいが、それを真に受けてすぐに電話をかけるほうも完全にイカレている。厄介なのは、自分の無知さにまったく気付かず、しかも奇妙な“正義感”を振りかざすことである。ただ、そんな中傷の電話やメールは、おそらくごく一部の限られたのがやっていると思いたい。もし、こんなのが全国にたくさんいたら、日本はもう完全にお終いである。

しかし、世の中にはもっと深刻な現実がある。見ず知らずの人を突然刃物で刺したり、駅のホームで後ろから突き飛ばしたり、車で故意に轢いたり、高速道路の橋の上から車に向かって物を投げたり、道路や線路に障害物を置いたり、家に放火したりする困った人たちがいることである。

精神医学の分野では、程度の差こそあれ立派に病名が付く相当深刻な病気なのだろうが、彼らも一見普通に生活しているので(周囲の人はひょっとしたら気付いているのかもしれないが)、問題を起こして初めてことの重大さを知る。

何の理由もないのに刺されたり、ホームから突き落とされたり、放火されて焼死したり、最愛の一人娘を失ったり、突然不幸のどん底に突き落とされた被害者や家族はたまったものではない。どんな賠償制度があったとしても、奪われた命は戻ってはこないのである。彼らの深い悲しみを思うと、本当に言葉もない。

しかし、現実にはこうした理不尽な犯罪に対する効果的な防止策はまったくないといってよい。識者やマスコミはよく「二度とあってはならない」とコメントするが、これまで何度あったことか。「保安処分」という処方箋がないわけではないが、日本では精神疾患のあるものや犯罪者といえども、人権的な問題からその運用にはきわめて慎重である。

かくて、人権と異常性の狭間で今日も突然尊い命が奪われる被害が出ていると思うと、何とも歯がゆい。一体、社会は彼らとどう向き合えば良いのか。人間の原罪とはいえ、人類の英知を結集した有効な方策はないものだろうか。

(本屋学問 2018110日)

ホツマツタヱ・エッセイ

相撲の起源について 

ホツマツタヱに相撲の起源となった記述があります。ホツマツタヱ35綾の後半に出てきます。

25行の57調のうたで記されています。時代は垂仁天皇の代になります。 

あるとみきみにもふさくは たえまくえは やおゝちから

ある臣が君(垂仁天皇)に申されました。

「たまえくえはや」という非常に大きな力持ちがいます。 

ちかねをのばしつのをさく かなゆみつく りとこかたり

鉄(ちかね)を引き伸ばし、牛の角をへし折り、鉄の弓も曲げて作る力持ちだと、ところ構わず吹聴しています。 

これをふみはるわがちから よにくらべんともとむれど なくてまかるや

ひたなげく

この鉄棒を撓めて弓を張ることができる俺の力を、この世で力くらべをしたいが誰もいない。

俺はこのまま死んでいくのかとひたすら嘆いているとのことです。 

きみもろにとふくえはやに くらぶるちからあらんおや

 君(垂仁天皇)は臣に誰か「(たまえ)くえはや」と比べる力持ちはいないのかと問いました。 

もふさくのみのすくねなり ながおいちしてこれをめす

すると、臣の一人が「のみのすくね」という者がいると進言しました。

 早速、「ながおいち」という臣に「のみのすくね」を呼び寄せるよう命令しました。 

のみのすくねもよろこびて あすくらべんとみことのり ちからくらぶるかみののり

 「のみのすくね」もこれを聞いて喜びました。

明日、力くらべをやろうと詔が出ました。 

すまゐのさとにはにわなし

「すもう」の土俵を宮中の外に作りました。(江戸時代まで相撲、角力を「すまい」と言っていたようです。土・埴(はに)を固めて作った事から今の土俵の元になっている) 

たまえはきよりのみはつに あいたちふめは

「たまえ(くえはや)」は東(き)より、「のみ(のすくね)」は西(つ)から登場して、お互いに(あい)立ち会って、しこを踏んで力を誇示した。 

のみつよく くえはやがわきふみてまた こしふみころす

「のみ(のすくね)」は強く、「(たまえ)くえはや」の腋を踏み倒して、更に、腰を踏んづけて殺してしまいました。 

ときにきみ うちはをあげてどよませば とみもよろこび

勝負あったそのとき、君(垂仁天皇)はうちわを挙げてどよませました。(軍配の始まり)周りの臣たちもよろこびました。 

くえはやが かなゆみおよびたえまくに のみにたまわり

「(たまえ)くえはや」の作った金弓と「たまえ(くえはや)」の領土を「のみ(のすくね)」に与えました。 

いえはつま つぎなしのみはゆみとりぞこれ

しかし、「たまえくえはや」の家は「たまえくえはや」の妻に残しました。「たまえくえはや」には世継ぎの子供がいませんでした。

「のみ(のすくね)」には、「ゆみとり」の勇士を与えました。  

現在の相撲の弓取り式や軍配などに引き継がれている不思議さを感じます。力士が東からと西から登場していたことも、土俵が作られていたこともわかりました。

(ジョンレノ・ホツマ 2018年1月18日)
 

 ホツマツタヱ・エッセイ 斎宮(いつきの宮)の誕生の背景 

 斎宮(いつきの宮)は、10代崇神天皇のときからですが、ホツマツタヱの後半の神武天皇から景行天皇までの流れを展開図に抜粋してみました。 

 斎宮(いつきの宮)が誕生した背景は、10代崇神天皇のときに、疫病が流行り、国民の半数が死滅してしまう大惨事が発生します。そこで、崇神天皇は神に祈り、今までの神への祈りが不十分であったと、考えられるあらゆることを実施します。

 崇神天皇は、「あさひ宮」(丹後)に御幸し、宮を新たに作り直しました。ここは、豊受神と天照神が洞に入って亡くなられているところです。

 三種の神器も新たに作り直しました。

 娘のトヨスキ姫には、天照神の御霊を笠縫(奈良県磯城郡)へ祀らせます。ヌナギ姫には山辺(奈良県宇陀市)の里に大国魂の御霊を祀らせます。

 

 この笠縫に天照神の御霊を祀ったことから斎宮が代々続くことになり、トヨスキ姫が初代の斎宮(斎女)になります。 

 この後、トヨスキ姫は天照神の御霊の安住の地を求めて探し求めます。神のお告げや夢でみる霊能力を備えておられたようです。

 トヨスキ姫は、神の告げにより、御霊笥を担いで、丹後の「よさ宮」へ行き、天橋立の松に大和の笠縫村から雲がたなびいているとあり、御霊が繋がったことを示しています。

 

 トヨスキ姫は103才で御杖(みつえ)の役をヤマト姫ヨシコ11才に引き渡しました。 トヨスキ姫が身に着けていた御霊を解き放ちヤマト姫に付けました。

 同時に、いわい主(官房長官)、神饌の守、神主なども新たにしました。

 「天の日置」は神主という、日本全国を計測していた人物の存在がここで分かりました。「知られざる古代 謎の北緯34°32′をゆく 水谷慶著」に日置の測量地点の記載があり、NHKでも取り上げられていたからです。 

2代目斎王 ヤマト姫ヨシコ

 ヤマト姫も、神の告げにより御霊の安住の地を探します。宇治に至りてこれ神風の伊勢の宮とあり、最終的には伊勢内宮に天照神、外宮に豊受神を祀ります。

 豊受神は天照神の祖父に当たります。天照神は日高見(仙台)で、豊受神から帝王学を学んでいます。イザナミは豊受神の娘に当たり、天照神の母でもあります。 

 ヤマト姫が108才になったとき、14才のイモノ姫クスコに引き継ぎますが、いずれも長寿に驚きます。引き継ぐときは、物部(モノノベ)が80人、司(ツカサ)が12人いたとあります。

当時、弟の景行天皇は纏向(マキムキ)宮で、皇子男55人、皇女26人、総勢81人にも及ぶ壮大でしたが、ヤマト姫のこの斎宮はそれより規模が大きかったかも知れません。

 ヤマトタケが景行天皇の勅使として東征に向かうとき、途中ヤマト姫に挨拶に伺い、ムラクモツルギ(昔、ソサノオが出雲の国を開いたときの剣)を授けられます。この伊勢で暦を作っていたことと、その暦が日高見にも届いていたことが勢力の大きさも頷けます。 

 3代目斎王 イモノ姫クスコ 

 ホツマツタヱの記述は3代目のイモノ姫クスコまでです。詳細の記載は見当たりません。 

この崇神天皇のときに疫病が流行り、国が乱れて大変なことになった原因はいくつかあったことがわかります。 

〇神武天皇の戦歴の場所で、罪人の霊が疫病を引き起こしているという夢の告げを受けて、

「おれがれ」(折れ枯れ:戦死)を「おとくまつり」(緒を解く祀り)や、右大臣左大臣に「たまがえしのり」(魂を返す法)を祈らせました。 

〇多数亡くなった国民の霊を祀らなかったので汚れ乱れた。「去る民もつずに祀らでゑに乱るさ」と、モモソ姫に乗り移った神のお告げと、崇神天皇の見た夢が同じであった。

〇以前、名を代えて母を妃に迎い入れることを忠告したため蟄居した「おみけ主」(大物主)を「たたねこ」を取り立てるため探しだし、子孫を「おみけ主」にする。

〇謀反の動きも事前に察知、対応した。「たけはにやす」と「あだ姫」であった。「あだ討ち」の語源のようです。

〇遠方の国々は乱れていたので、越の国、ほづま国、山陽道、丹後にそれぞれ勅使・将軍を派遣、教えに従わなければ討ち滅ぼせと進軍した。 

 平和になり、崇神天皇は平和を感謝し、「おさ」と「いとけ」、大人と子供を区別した。

休暇を設けた。いとま空け(糸と糸の間)、ゆはず(弓端)たずえ(手末)のみつぎどめ(作業中止)。

次の、垂仁天皇の代になって、節休み(竹の節目)として、5節句を設ける。

正月7日、3月3日、5月5日、7月7日、9月9日

 垂仁天皇は、兄の死に際して生きたまま埋められるという残酷な殉死を強いられる人々の悲鳴を聞き、ことの無残さを知り、以後、殉死する人に代わって「はにわ」を作って安置することに決めます。神武天皇のときは33人もの殉死者がいた。 

イカシコメ→イキシコメと名前を変えて息子のお妃になるという背景には、天皇が逝去されたら、お供の者も殉死していたであろうと思われます。名を代えて腹違いの息子の妃になれば、殉死せずに生き延びられたからではないでしょうか。

(ジョンレノ・ホツマ 2018年1月18日)

滴り落ちてくる恵みを待て? 

今年はいったいどんな年になるのか。平成30年はまさに内憂外患である。日本を取り巻く現下の「外患」は、第1に、何をしでかすか全く予測のつかない金正恩の北朝鮮。次いで第2は、金正恩と張り合って核をもてあそび「アメリカファースト」を叫ぶ米国、というよりトランプ大統領。第3は、東シナ海に勝手に防空識別圏を設けたり、南シナ海の他国海域で軍事用の人工島を造成する習近平の中国、といったあたりではないか。ついでに第4は、北朝鮮に秋波を送り、慰安婦問題を蒸し返す文在寅の韓国。さらに第5は、長丁場で北方領土を争うプーチン大統領のロシアだろう。

しかし我が安倍首相は、外ばかり向いているわけにはいかない。「内憂」の方を見ると、本命のアベノミクスはすでに5年となり、今年はいよいよ正念場を迎える。最大の狙いである物価の上昇は、アベノミクスのスタート以来低迷したままで1%にもとどかず、目標の2%にはほど遠い。

政府は今年6月に、「経済財政運営と改革の基本方針」(いわゆる骨太の方針)をまとめる。中心の課題は財政再建である。しかし、すでに来秋の消費税率10%へのアップがあっても増収分は「人づくり」などに使うことになっているから財政再建には使えない。したがって財政再建のためには歳出を削減するしかない。となると、歳出全体の3分の1を占める社会保障費の削減に切り込まざるを得ない。要するに高齢者や弱者の負担増は避けられない。

税収増もままならないのに企業減税だけはやる。日本の法人税率は18年度に29.74に下がる。しかし、米国が約28%まで下げるので、経団連榊原会長は「25%程度まで引き下げるよう政府に働きかける」と言う。長年にわたって日米や世界の法人税率は下がる一方である。

かくして今、米国の大型減税が注目されている。トランプ大統領の公約で実現したのは、TPP離脱、輸入制限など、「アメリカファースト」の世界の動きに背を向けた“マイナス政策”ばかりだったが、やっと公約の大きな柱だった大幅減税を実現した。隙間風の吹いていた与党共和党が、11月の上下院中間選挙を前に危機感を強めて大統領に歩み寄った結果らしい。ただし野党民主党は、今回の大型減税を「金持ち・大企業優遇」だと批判を強めている。

いまはすっかり忘れられているようだが、数年前大ブームとなったフランスの経済学者トマ・ピケティは、その著書「21世紀の資本」で、資本主義をこのまま放っておくと貧富の格差が際限もなく広がって行くので、富める者から税金で取り立てて格差の是正を図るべきだと言った。

また、著名な経済学者ガルブレイスは、「富裕層は消費するか貯蓄するかを選択できるが、中間層や貧困層は消費する以外に選択の余地は少ない。したがって消費を刺激する意味で恵まれない層に配慮した方が富裕層配慮よりも経済にプラスだ」と教えている。

近ごろ、「トリクルダウン」(したたり落ちる)という経済用語がよく使われる。これは、経済が成長すればその恩恵が国民全体にしたたり落ちてくるという概念である。有り体に言えば、企業や資本家、富裕層が富を増やせば、その恩恵が中下流の国民にも滴り落ちてくるということだ。極端な言い方をすれば、弱者は滴り落ちてくる恵みを待てということで、中下流層にとっては屈辱的な理屈である。

先のピケティは、富裕層への資産課税を強化して貧困層との格差是正を図るためには、資産や所得隠しの海外流出を許さない国際的な協調体制が必要だと言っている。これからの資本主義社会における中長期的な経済システムとして、ピケティの提言を真剣に研究すべきではないか。

(ネットで「中高年クラブばばんG」をご覧ください)

(山勘 2018年1月16日)
 

臭いものにフタ?「ガバナンス」 

「赤信号みんなで渡れば恐くない」というわけでもなかろうが、昨年は、企業不祥事の“大増産”だった。“追い込み”の秋口には、日産自動車、神戸製鋼、そして経団連榊原会長の出身企業傘下の東レ子会社と続いた。とりわけ驚いたのは、暮れに発生した新幹線車体の亀裂事故である。まさに大惨事直前だった。車体の走行音に異常を感じた保守担当者が「点検すべきだ」と意見具申をしたが、つまらないやり取りの食い違いで、東京の総合指令所が「運行に問題はない」と判断したという。これは相次いだ他の企業不正とは関係なさそうに見えるが、企業不正にみられる「現場軽視の風潮」と「組織内の連携」が取れていない点で同根である。

戦後の大企業を育てた創業社長のような熱い経営理念をもった企業トップが少なくなり、サラリーマン社長の視野が狭くなっている。グローバル時代とは言いながら、多くの日本企業は世界を睨むより業界内のライバル企業の動向に神経をとがらす。ライバル企業どころか自社内での収益競争で他部門をライバル視することも少なくない。サラリーマン重役の多い企業社会では他部門の不始末は即ライバルの不始末でもある。また派閥内では上の顔色をうかがう“忖度”が当然になる。要するにこうした閉鎖的な日本の企業風土が社内不正の発生する“温床”になる。

一連の不祥事が発覚して、最も大きな原因として挙げられたのは、ガバナンス(統治)が働いていなかった(神鋼役員もそういって謝罪した)ことである。企業でいうガバナンスは、「コーポレートガバナンス」すなわち「企業統治」と言われるものだ。要するに企業内で起きる不正・不祥事を予防するための内部統制の仕組み、管理・監督の仕組みである。

しかしあえて欠点を挙げれば、「ガバナンス」の要諦は上が下を統治する制度、いいかえれば上から締め付けようという仕組みである。要するにガバナンスは、不正の温床を探り不正の根を断とうとするのもではないということである。問題の根は、「天知る地知る己知る」で、もっとも実情をよく知っている現場が黙っていること、あるいはそれを上に言えないことである。それが不正の温床である。

振り返れば戦後の「安かろう悪かろう」の稚拙なモノ作りから始まった日本の工業は、高度成長期の技術開発で世界に通用する高品質を生み出した。いいものを作れば売れると信じて「オーバースペック」になってもそれを誇りにしてきたところがある。

さらにその現場には、昭和40年代を中心とする全盛期の品質管理があった。そして、「QC(品質管理)サークル」による自主的な改善活動が活発だった。日々の就業時間後に、残業代もなしに職場の仲間で品質改善や作業改善のアイデアを出し合い、上の了解を得て正式に改善対策を実施するのである。職場単位でそれを競い合い、会社も表彰制度や報奨金で奨励した。

それに比べて現代は、長年かけて業務に精通していく終身雇用制もない。社員の自己啓発マインドも低下しがちである。不正規社員や中途採用社員が増えている。働き過ぎは罪悪、残業規制優先である。世界に例のない純日本的な自主活動のQCサークルなどは流行らない時代になった。

しかし、QC全盛時の現場には、不正を除去する「透明性」があった。いまさら昔に帰るすべもないが、不正防止に限って言えば、欧米流の「ガバナンス」重視で行くか、日本流の「現場の透明性」重視で行くか、それが問題だ。欧米流の合理的な「ガバナンス」も、日本においては臭いものにフタをする「ガバナンス」になりかねない。それだけに、本来日本の強みであったはずの現場に始まる組織内の「透明化」をいかに取り戻すか。それが不正防止の決め手になるのではないか。

(山勘 2018年1月16日)