例会報告
第68回「ノホホンの会」報告

 
2017年6月21日(水)午後3時~午後5時(会場:三鷹SOHOパイロットオフィス会議室、参加者:狸吉、致智望、山勘、恵比寿っさん、ジョンレノ・ホツマ、本屋学問)

梅雨の最中とはいえ、雨のなか全員が時間前に集合で、皆さんの意気込みを感じます。今回も世界経済、政治問題から、名画の謎、出版界の実情まで、広いジャンルの話題が提供されました。

これからの私たちの生活がどうなるのか、住みやすい社会になるのか、いろいろと情報を集めて知恵を絞らなければならない時代になりました。


(今月の書感)

「99%の人類を奴隷にした 闇の支配者 最後の日々─アメリカ内戦から世界大改変へ」(ジョンレノ・ホツマ)/「ビットコインは『金貨』になる」(致智望)/「辞書になった男 ケンボー先生と山田先生」(狸吉)/「ダ・ヴィンチ絵画の謎」(恵比寿っさん)/「『週刊文春』編集長の仕事術」(山勘)/「政府はもう嘘をつけない」(本屋学問)


(今月のネットエッセイ)

「クラウドファンディング」(本屋学問)/「嘘か真か 紛らわしい時代」(山勘)

 (事務局)

 書 感

99%の人類を奴隷にした 闇の支配者 最後の日々─アメリカ内戦から世界大改変へ/ベンジャミン・フルフォード著(KKベストセラーズ 2016年5月発行)

著者はカナダ生まれ。80年代に来日。上智大学比較文化学科を経て、カナダのブリティッシュコロンビア大学を卒業。その後再来日し、「日経ウィ-クリー」記者、米経済誌「フォーブス」アジア太平洋支局長を経て現在はフリーランスジャーナリスト、ノンフィクション作家。 

帯表紙に、「これは革命だ!ハザールマフィアの金融支配がついに崩壊する。米ドルはすでにアメリカ合衆国のものではない!」とあり、歴史的経緯から書かれており、初めて読むと想定外の信じられないようなことが書かれている。さらに、これまでの常識は通用せず世界は混沌(カオス)となっていく。「あり得ないことなどあり得ない」という認識をもつ必要ありとある。 

CIAがドラッグの密売ルートを摘発する名目で作った操作ツールがスーパーKであった。マフィアのアジトを突き止め幹部やボスを見つけCIAの手下へと組み込んでいった。そして、CIAは世界中のマフィアを傘下に従えた犯罪ネットワークを構築した。 

そのうち、CIAの内部にも愛国者派が現れ、マフィア派に相対することになった。CIAは組織上二つの命令系統、一つは国務省、一つは国防省ペンタゴンがあり、割れて対立。国務省は「ナチス勢力」の出先機関であることが分かる。 

2003年イラク戦争は、サダムフセインが「大量破壊兵器」を保有して米国を攻撃するという国務省のプロバガンダに乗せられ、イラクに侵攻、徹底的に国土を破壊した。アメリカは正義の戦いと信じ切っていたが、イラクは大量破壊兵器は保有しておらず、イラクの石油利権確保という火付け盗賊であったことが明らかになった。正義であるはずのアメリカ軍が世界中から悪の軍隊に糾弾された。 

2009年イラク戦争後、アメリカ軍とペンタゴンは国務省に不信感を持ち、調査する。ワシントンDCはナチス勢力に完全に乗っ取られている事実を掴み、マフィアが命令を下していたことを知る。

2015年 ジョゼフ・ダンフォードがアメリカ軍統合参謀本部議長に就任、今後のアメリカに欠かせない人物となる。ホワイトハウスのパワーバランスが国務省(ナチス勢力)からダンフォード指揮のペンタゴンへと移っているようである。ダンフォードは世界権力からハザードマフィアを排除していく方針を打ち出し、公然と国務省=ナチス勢力と敵対するようになり、このアメリカの分裂の動きが世界中へ飛び火している。

「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないが、SMAPの分裂の裏事情にもなっていたことを知った。このハザールマフィアを「闇の支配者」と呼ぶのは、少数で多数を支配して富を独占するからである。 

その証拠が(CNN 2016.01.18)で、貧困問題に取り組む非政府組織(NGO)オックスファム・インターナショナルの2015年版の年次報告書から、資産家上位62人と残りの下位36億人の資産は、どちらも計1兆7600億ドル(約206兆円)だった。 

富裕層の資産は近年、急激に膨れ上がっており、2010年の時点では、上位388人の資産合計が残りの下位合計に等しいという結果が出ていた。上位1%の富裕層が握る資産額は、残りの下位99%の資産額を上回る水準にあるという。一方で富裕層の税金逃れは総額7兆6000億ドルに上っていると推定されている。オツクスファムは格差縮小に向け、世界の指導者に対策を改めて呼び掛けた。 

日本では、2001年 ネオリベ(ネオリベラル・新自由主義)を標榜する小泉(純一郎)売国政権ができて、格差が急速に広がった。それでも日本では、まだ「1割の金持ちが日本の富の4割を独占」(1%の金持ちでは10%)程度だが、今、ものすごい勢いで富の独占は加速している。1986年まで日本の所得税の累進課税は最高で70%もあった。1億円の収入があっても税率の関係で3000万円の収入と、それほど大差がなかった。ところが1999年に37%にまで引き下げられたあと、小泉政権の間もその低い税率は維持された。 

その後、震災の影響もあり、45%まで引き上げられたが、それに安倍政権は課税対象所得に2億円の上限をつけることを検討している。法人税の実効税率のほうは20%まで下げようと目論んでいる。そうなれば10年以内に1%で7割(70%)以上の富を独占することになるはず。 

◎ハザールマフィア「闇の支配者」とは 

「ハザールマフィア」は「サバタイ派マフィア」と呼ばれていた。17世紀、ユダヤの救世主であると主張したサバタイ・ツヴィ(Sabbatai Zeri)という男の名前に由来。各地で自分はユダヤのメシアであると説いて回り、熱狂的な支持を得る。

しかし、1666年にトルコ当局により投獄され迫られて、イスラムに改宗した振りをした。これがハザールマフィアの帝王学が生まれるきっかけになる。この時、既に100万人以上のサバタイの信者も、彼に倣って表向きはイスラム教へと改宗し、イスラム教の内部に入り込み、イスラム全体を乗っ取る計画を立て始めた。 

その後も、同じ手法であらゆる宗教の信者へとなりすまして、様々な有力組織の中枢へと潜り込むことに成功。他の宗教宗派と同様に、一神教の統一を目指し、サバタイの組織で世界権力を握ろうと考えた。(最近、日本各地のお寺などで見かけるようになった外人僧侶もそうなのであろうか!? その継承者らが、イスラム教徒やキリスト教徒、あるいはユダヤ人になりすまして、今も計画の実現に向けて動いている。 

ハザールは7世紀から10世紀にかけて、カスピ海の北からコーカサス、黒海沿いに栄えた遊牧民族の国家のこと。このハザールの地域で、キリスト教とイスラム教のどちらかに改宗を迫られたプランという王が、どちらからも攻められないように、積極的にユダヤ教に改宗してきた。現在のユダヤ教の大半を占めるのは、このハザール系ユダヤ教の子孫であり、パレスチナに住んでいたユダヤ人の子孫ではない。 

農耕民族の家畜の飼い方は、使役動物として家族同様、大切に扱うが、ハザールの思考は少数で大多数を管理する遊牧民的な発想で、家畜を使って利益が出れば当然のごとく牧場主が全てを奪い取る。 

古代の遊牧民に「羊人」(sheeple)と呼ぶ部族があり、人間を家畜として扱い家畜のように管理している。つまりハザールは羊人=農耕民族を管理する羊飼いとして一神教を作り、その神になりすますことで全体を支配してきた。 

古代中近東のヒクソスはエジプト第二王朝の征服民族でエジプトから追い出されたとき、「ヘブライ人」たちを奴隷にするために作ったのが「ユダヤ教」である。 

ヒクソスは自らを「羊飼いの王」と呼んでおり、自分達以外の人間を「ゴイム:豚」と呼んできた。そのゴイムの証にしているのが割礼で、メソポタミアでは戦争で負けた部族に割礼を施したという。割礼には侮辱的な意味があった。(ユダヤ人がなぜ豚肉を食べない理由が分かった) 

それでもいまだに続けているのはユダヤ教徒がヒクソスの奴隷であり、家畜であるという印になっているからで、著者がユダヤ教徒自体を「悪」として糾弾しないのはヒクソスの道具にされてきたと考えているからとある。 

ナチスの優生思想は、人間を「羊人」=「家畜」と見なして、牧場主である自分たちのためなら何をしようと構わないというヒクソスの考え方に由来する。 

ナチス犯罪の代表はアウシュヴィッツである。そこにある思想は、如何に効率よく、安価に大量に人間を殺すかで一貫している。人間が憎しみをもって人間を殺しているというより、家畜の処理場の運営マニュアルという印象である。 

ナチスは20世紀半ばまでアドルフ・ヒトラーを総統にドイツで第3帝国を形成、優生思想に基づきヨーロッパを支配しようとしたが、アメリカへと根拠地を移しナチスの直系としてブッシュ一族が管理、パパ・ブッシュが総統となる。戦後はアメリカ軍とCIAを使ってアメリカを「闇の支配者」のための植民地経営企業にする任務を請け負ってきた。その一方で世界中の犯罪組織を傘下に従え、ドラッグ、武器、人身売買とテロを行う組織を作っていく。 

ハザールマフィアは、欧米覇権国家の権力中枢機能に巣食った「マフィア」=犯罪集団である。いわゆる「イルミナティ」といった秘密結社、ロスチャイルド一族、ロックフェラー一族、欧米の王族、企業家一族などもハザールマフィアの構成員であり、「闇の支配者」に含まれる。 

そして、アメリカに巣食っているハザールマフィアの一派がパパ・ブッシュ率いるナチス勢力で、人類の9割を殺す狂気のハルマドゲン計画を立てて、実行に移そうとしてきた。ハザールマフィアの「テロ派」であり、最も危険な思想を持っている。 

そして9・11を契機にパパ・ブッシュは、「闇の支配者」の指導的立場を手中にする。そうしてヒクソス的理想世界を実現するために狂気の人工ハルマゲドン計画を実行に移そうとした。これが隠されていた世界の「裏の歴史」である。 

◎今の世界もバビロニア借金奴隷制度と同じ

搾取を前提に考えれば、最も効率がいいのは「借金奴隷」なのだ。しかも奴隷と思わせないところがポイント。だから月50万円稼がせて、そのうち30万円を返済させる。残り20万円の生活費を与えつつ、その使い道もコントロールして割高な商品で中間搾取する。借金額が減っていけば、いろんな理由をつけて借金をどんどん増やし、働けなくなるまでこき使う。これが結果的に一番、搾取できるのだ。 

日本でいえば「たこ部屋」が近い。たこ部屋とは、ヤクザなどの高利貸しの返済のためにダムなどの過酷な工事現場で働かせることだが、ここで巧妙なのは、働けば、きちんと高額の賃金を支払うところにある。借金返済分を回収されても、それなりの金額が手元に残る。労働者は気が大きくなって、借金などすぐ返せると考えてしまう。そこにつけ込んでヤクザ組織はギャンブルや売春宿を経営し、その残った金まで巻き上げ、さらに借金を増やし続けて、働けなくなるまでこき使うわけだ。 

もともとヤクザの高利貸しによる不当な借金である。その返済に重労働をさせて、なおかつ、割高な衣食住で生活費を巻き上げ、ギャンブルや売春、飲酒といった遊興費をどんどん使わせる。労働者は働く意欲を失わず、遊ぶ金ほしさもあって真面目に働く。奴隷労働より収益性は何倍も高くなる。今の世界、バザールマフィアが支配してきた世界は、この「たこ部屋」となっている。 

だからこそ世界の富を1%で独占するという異常な事態が起こっている。つまり、99%の人間は、違法な借金を無理やり押しつけられて、本来、返済しなくていい「バーチャルな借金」のために日々、苦しい労働を強いられている。架空の借金返済をした後、手元に残った金も、あらゆる手段を通じて1%の富裕層に貢いでしまっている。これを「バビロニア借金奴隷制度」という。 

バビロン時代の労働者たちは、どんなに働いても借金が増え続けていたという。これは石版に労働者の勤務表や収入などが詳しく書いてあり、それを分析することで分かった。どうして働いても借金が増えるのかといえば、お金を得るのに「借金」が前提になっているからだ。まず借金をしてから仕事をすれば、当たり前だが、「黒字」にならない。 

今の世界も、このバビロニア借金奴隷制度と同じである。なぜなら「お札」自体が借金札になっているからで、それは「民間中央銀行」が問題なのだ。バビロニア借金奴隷制度について、ロックフェラー一族とロスチャイルド一族、両家それぞれの人間から聞かされた話を紹介している。 

「1929年10月24日にニューヨーク証券取引所で株価が大暴落、世界恐慌となった。この不況を乗り切るには、アジア王族の「金(ゴールド)」を借りるか、あわよくば盗むしかなくなった。1934年、恐慌の影響でアメリカが事実上の破綻を迎えたとき、米連銀は経済再建のために中国を含む複数のアジア王族から金を借りることになった。その際、アメリカが「担保」として差し出したのが、「アメリカ国民」の労働力なのである。1936年以降、アメリカでは子どもが産まれると同時に社会保障番号(Social Security Number)が発行されるようになった。それを担保に現在でもアメリカ人の一生分の労働力を担保として1人当たり30万ドルの債権が発行されているというのだ。」 

2015年、日本でも「マイナンバー制度」が施行となった。このマイナンバーの最終目的が、アメリカ同様、日本人の「労働力」を担保にしたハザールマフィアの搾取に悪用される可能性は高い。だからこそ、いち早く倒さなければならない。 

本書を読んでいるうち、TPP問題も地球温暖化対策も、ハザールマフィアが搾取のために作られたと思え、アメリカが手を引いた理由は、この裏金の流れを断ち切るためであったのではと思えた。 

他にも気になった項目がありましたが、以下に目次のみの紹介で! 

プロローグ─人類史上未曾有の経済危機

分裂する世界-SMAP分裂騒動の知られざる真実 

SMAP分裂騒動の「きな臭さ」

日本版「ジミー・サヴィル事件」

山口組分裂がSMAP分裂の本当の裏事情

山口組分裂の理由を内部事情に求めても分からない

CIAが分裂したから山口組も分裂した

CIAの分裂は国務省とペンタゴンの対立

アメリカの実体は「USAカンパニー」

国務省は「ナチス勢力」の出先機関

国務省と闘うジョセフ・ダンフォード

勃発! アメリカ内戦

アメリカ内戦から世界内戦状態へ 


第2章 「闇の支配者」の正体─人類の豊かな未来を奪ったハザールマフィア 

「闇の支配者」=「ハザールマフィア」

悪魔崇拝の羊飼い部族ヒクソス

BRICSを支える「ドラコンフアミリー」=アジアの王族

追いつめられるハザールマフィア

アメリカの新ドル札発行の真の意味

「究極の富の独占」システム

バビロニア借金奴隷制度

アメリカは通貨を発行するたび「借金」をしなければならない

「石油交換券」となったドルでポロ儲け


 第3章 低迷する世界経済─目前に迫る「ドル崩壊」イベント 

「パナマ文書」の衝撃

欧米経済がここまで失速した理由

「ドル崩壊イベント」はすでに始まっている

世界経済・金融のための新国際機関設立への動き

ローマ教皇が仲介する「米ロ軍事同盟」

「スイーパー」としてのドナルド・トランプ 

第4章 DEF包囲網-国際バザールマフィアの汚れた錬金術 

「闇の支配者」に潜り込んだ国際バザールマフィア

「ドラッグ(D)」「エネルギー(E)」「ファンド(F)」の三本柱

「ドラッグ」をビジネスにする方法

ドラッグを「違法」にするから「麻薬カルテル」が儲かる

ドラッグを扱うマフィアを「グラディオ作戦」に利用

ヘリコプターから裸吊るしで殺された竹下登

国際バザールマフィア潰しに動き出した世界

バチカンもバザールマフィア潰しに乗り出した 


第5章 パリ、ベルギーの「やらせ」テロ─ハザールマフィア最後のあがき 

テロの犯人は「イスラム教徒」ではない

被害者は「サクラ」

ブリュッセルのテロは事前警告されていた

すでに国家財政破綻同然のフランス

「旧オスマン帝国」vs.「旧ペルシャ帝国」の戦い

原油vs.LPG

金正恩とペンタゴンはすでに和解した

ハザールマフィアの「最後のあがき」としての「イスラム国」 


第6章 安倍「ナチス」政権の実態-貧困化する日本 

日本人の3割近い世帯がすでに貧困層

アベノミクスの完全失敗

「マイナス金利」の効果は金庫の販売台数増加だけ

東京の街からホームレスが消えた

貧困風俗嬢の陰に奨学金「借金奴隷」

安倍政権はナチス政権

介護制度は合法的「高齢者処分システム」

なぜ、自動票読み機が必要なのか

「ムサシ」の株主はロックフェラーとロスチャイルド系

まともな「傀儡(かいらい)」役もできない安倍晋三 

エピローグ─再編へ向かう世界。米ドルがアメリカのものでなくなる日

キリスト教とイスラム教の融合プロジェクト-「一神教4・0」

新世界政府樹立へ

(ジョンレノ・ホツマ 2017年6月5日)

ビットコインは「金貨」になる/石角完爾(朝日新聞出版 本体1,400円) 

著者の石角完爾は、千代田国際経営法律事務所所長を務め、国際弁護士としてアメリカ、ヨーロッパを中心に活躍しており、ユダヤ教に改宗して現在はスウェーデンに在住し、多岐にわたる著書が上梓されている。

本書のテーマ「ビットコイン」は、何か怪しげなものに感じつつも将来に可能性を持つシステムとして話題になる事が多い、また大手都市銀行がこのシステムを導入する機運が有り、三菱UFJ銀行などはスタートを切ったと言う。続く大手銀行も既に検討に入っていると聞くが、世情には怪しげな事件も耳にする状況の中で、一体これは「何だ」との思いから読み始めた。

今我々が便利に利用している貨幣経済は、有史以前から有ったもので、史料としてローマ帝国や古代エジプトの資料から読み取れる。ローマ帝国が滅びたのは正しく貨幣経済の失態が原因であったと言う。古代の貨幣は、金貨であり時の支配者が威圧的に発行していたものである。

経済が発展する従って流通量が多くなると金の含有量を減らして通貨の量を増やさざるを得なくなる。ローマ帝国は粗悪な通貨つまり金の裏付けの無い方向に向かったので、貨幣の信用を失い滅びたと言う。貨幣の歴史は、ローマ帝国のみならず中国や日本で為政者のもとで発行され使われてきたが、300年のサイクルで栄枯盛衰をくりかえしているという。

国家の為政者が発行する貨幣をフィアット・カレンシーと言い別名強権通貨とか、押し付け通貨と言い、ビットコインをクリプト・カレンシーと言って本書は区別している。要は、現在流通している通貨は為政者が強権を以て発行したものであり、破たんする宿命を持つ。対するビットコインは、「非集中型取引証明合意システム」でクリプト・カレンシーと言い、根本的に違うシステムだと言う。

このビットコインは2100万個が作り出せる上限で、数学理論、物理公式によって統御されたパズルのようなもので、相当難しい技術とのこと。

ローマ帝国の発行したフィアット・カレンシーはチープなものであったために滅んでしまった、そして今米国は世界基軸通貨として大量にドル紙幣を発行している、日本もヨーロッパも負けまいと発行する。大量に作られるものは値段が安いという大原則がある。円・ドルのレートや円・ユーロレートと言って騒ぐが、それは二国間の比較論であり、いずれ全体が暴落することになる。金価格は時代の経過に比例して高くなっていることが如実にそれを説明している。

ビットコインの技術は、ブロックチェーン技術によるもので、旧来の金融システムにコントロールされないところで、金融システムを構築できると言う事、為政者の自由にならないことにある。一方、このブロックチェーン技術は、中央集権型の強権に作用されない事から、法律制度が行政機関によって管理される必要が無くなると言う。米国ハーバード・ロースクールではアメリカ政府からの60万ドルの資金提供を受けて研究されていると言う。

ビットコインの現状であるが、特定のコンソーシアムを組んだクローズされたグループ内で運用されているのが現状。例えばキャシュカードのダイナース、ビサなどが組んで最終的にフィアット・カレンシーにリンクして支払、返金などの決済業務に利用され、安全性利便性に絶対的な信頼が持てる状況で運用されていると言う。フィアット・カレンシーをビットコインに変換して決済を行う事になるのだが、その変換レートがビットコインは3倍に跳ね上がったと言うニュースが有った。つまりビットコインで支払った方がフィアット・カレンシーでの支払いよりも有利と言う現象であり、ビットコインで資産維持するほうが安全と言う現象である。近い将来金貨以上の信用力を持って流通するのは間違いないと言うことも巷でいわれている。

私のビットコインにたいする理解度は、いまもって相当に隔たりがあると理解しているが、どうもユーロの国家間の決済システムに似ている様にも思う。国家間での決済も俗に言うところのキャシュ・オン・デリバリーでは無く、貸し借りが帳簿上に記載されるだけで現品の移動が行われ、生ずる+-を何年かの期間に調整して行く、その約束事でお互いの経済が回っている。そこには、ビットコインの様なものは介在せずとも、国家間のバルク処理の様なものだから手間はかからず、現時点では何事も起こらない、この行為が個人レベルになるとビットコインの出番かと言う理解する上の切り口と思う。

この様な理解度であるが、それからすると、誰かが信用を失う行為なり、約束を履行しないとなると如何なるか、このような片肺飛行状況をやがてユーロは破たんすると言われる所以と私は思うのである。

ビットコインは、つまるところ、未だ実用化されていないものの、フィアット・カレンシーの破たんは確かなのだから、やがては実用化せざるを得ない。しかし実用化には、胴元になり得る国か企業か100%信用のおける者、あるいは権力者を必要とするのではないか。IMFの様な金を出し合う組織になるのか。肝心の金融システムに本書は踏み込んでいない、それがビットコインを理解出来ない原点の様な気がする。

国連の存在、ロシアの不遜、中国の傲慢、米国のエゴ、もしかすると北朝鮮は全ての矛盾を理解しているのかも知れない。

(致知望 2017年6月6日)

辞書になった男 ケンボー先生と山田先生 佐々木健一/(文春文庫 2014年 本体800円) 

この会に集う者たちにとって言葉は大切なものであり、その言葉は辞書によって定義される。本書はその辞書作りに生涯を捧げた偉大な編纂者、見坊豪記(ひでとし)と山田忠雄を軸としたドキュメンタリーである。著者佐々木健一が構成したテレビ番組は平成25年に放映され、その年のATP賞(優れたテレビ番組に与えられる賞)を受賞した。本書は番組制作のため集めた資料と、放映後に寄せられた情報を基に書き起こされたものである。 

見坊は当初昭和18年に刊行された金田一京助著「明解国語辞典」のゴーストライターのような形で辞書作りを開始した。その際東大国文科の同期生山田を助手として誘う。

この辞書は昭和3年刊行の「小辞林」をベースにしたが、「表音式見出し」の採用、語数の多さ、戦時中にも拘わらずノックアウトやフレンチドレッシングのような敵性外来語の収録など、「小辞林」とはまったく異なる革新的な辞書を作り上げた。山田は改訂作業に多大の貢献をしたが、見坊は山田をあくまで助手扱いし、このことが後年二人の間に不和を生じる基となった。 

敗戦のショックにより、見坊は郷里の盛岡で3年半隠遁生活を送ったが、「明解国語辞典」の改訂作業を依頼され、山田をまた呼び戻す。昭和27年、見坊は「明解国語辞典」改訂第2版を刊行する際、自分と山田を初めて共同編集者として記載している。その後二人は性格の違いから袂を分かつが、本書はそれ以前の二人と金田一が協力していた頃の、辞書編纂会議の様子を活写している。その後、見坊は「三省堂国語辞典」の、山田は「新明解国語辞典」の編纂者となるが、見坊は仕事の遅さに困惑した三省堂幹部と山田の手で編纂者の地位を追われ、以後二人は不倶戴天の敵同士となった。 

見坊は言葉の解説より言葉自体や用例の収集に熱心であり、山田は言葉の意味の解説に重きを置いた。例えば見坊はウルトラマンやエッチという現代語を取り入れ、山田は「あこう鯛」を「顔は赤鬼のようだが、うまい」と解説する。見坊は合議制で仕事を進め、山田は一人で作業をする。その山田も言葉や用例の資料は見坊の集めたものに頼らざるを得ず、それを三省堂が提供したので、見坊は盗用と怒り二人の溝は益々深まった。 

それからも二人が協力して仕事をすることは生涯なかったが、不思議なことに晩年は互いに相手の特性が乗り移ったように変わってきた。山田はその独特の解説が傲岸不遜との謗りを受けたが、版を重ねるごとに修正を受け入れ、人当たりも柔らかくなった。また「見坊氏の収集には私は遠く及ばない」と評価している。一方見坊も合議制より自分一人で編纂するようになった。そして「私は山田君を許します」と知人に告げた由。二人とも不仲ながら、互いに相手を尊敬しあっていたようだ。 

本書は国語辞書編纂の裏に隠れた複雑かつ壮大な人間ドラマを描き出している。天才・鬼才の友情・確執・和解を読み終え、いささか疲れを覚えた。何はともあれ、この著者がいなければ知る由の無い世界である。本を読む喜びを感じた。

(狸吉 2017年6月10日)

ダ・ヴィンチ絵画の謎/斎藤泰弘(中公新書 本体1,000円 2017年3月25日発行) 

1946年福島県生まれ。1978年京都大学大学院文学研究科博士課程修了。

京都産業大学助教授、京都大学助教授、同大学大学院文学研究科教授などを歴任。

京都大学名誉教授。専攻・イタリア文学、イタリア演劇。

『鳥の飛翔に関する手稿』(谷一郎、小野健一共著)で第3回マルコ・ポーロ賞を受賞。

著書『レオナルド・ダ・ヴィンチの謎――天才の素顔』(岩波書店、1987年)

役所『レオナルド』(エンツォ・オルランディ編 評論社 1980年)ほか多数。 

目次

はじめに

第1章 『モナリザ』は女装したダ・ヴィンチか

第2章 最初の風景素描と『受胎告知』

第3章 フィレンツェ時代の自然観

第4章 ミラノ公国付きの技術者

第5章 スコラ自然学との出会い

第6章 ミラノ時代の地質学調査

第7章 『聖アンナと聖母子』

第8章 大地隆起理論への疑問

第9章 世界終末の幻想

第10章 「どうぞ其処を退いてください あなたはいつも遮るのです」

第11章 わたしがどうしてあなたに向かって微笑んでいるか、分かる?

第12章 ザッペリ説にも問題が
最終章 最終章晩年のレオナルド

あとがき

参考文献/図版出典 

著者はイタリア文学、特にダ・ヴィンチの手稿の研究で知られる研究者だ(と初めて知りました)。どこを読んでも研究に裏打ちされた説得力ある文調や根拠が明確なので、感心して読んだ。なので、メモも取らずに読み進んだので、書感のネタに苦労。 

http://kocho-3.hatenablog.com/entry/2017/04/10/104134  毎日1冊、こちょ! の書評ブログから引用させていただきます。 

どう繋がっているか、分かる?

モナリザは上半身で背景の中央部分を遮って、見る者に向かって微笑みながら「わたしの背後で風景がどう繋がっているのか、分かる?」と問いかけている。実際、彼女の右側と左側に展開する風景がチグハグで、両者が彼女の背後でどのように繋がっているものか、これまで誰も納得できるような説明をしたことがなかった。 

絵の背景に込めた意味

向かって右側では、アルプスのような山岳地帯を水源地とする川が、きわめて自然に蛇行しながら流れ下ってきている。それに対して左側では、山々や水に浸食されて倒壊し、水はその行く手を塞がれて、湖となって広がり、次いで近い将来、その堤防を食い破って湖を崩壊させ、その下流域に襲いかかって、地表にあるものすべてを洗い流すはずである。 

なぜこのテーマを選んだのか?

…この世の終末をめぐる問いは、あらゆる時代のあらゆる人間の心を捉えてやまない人類の永遠の問いである。しかし、とりわけルネサンスのヨーロッパ社会においては、この問いはより切実なものであった。彼らの世界観の根底をなしていたキリスト教思想は、この世の終末を─その時期こそ不確かながらも、その確実な到来を─予言していたからである。…世界の終末は、現代人を脅かす核戦争の恐怖と同様に、当時の人々を脅かし続けた強迫観念だったのである。 

ダ・ヴィンチの考えていたこと

彼の化石の生成過程についての地質学的考察は、この手稿においても続けられ、それらはすべてかつての海底が現在の山岳にまで隆起したことを証言していた。ところが、彼の地質学的考察は、永久的な大地の隆起を否定して、最後には大地が再び水没することをはっきりと予言していたのである。 

ダ・ヴィンチ絵画の謎

ダ・ヴィンチは20歳の時画家の工房の親方として独立した。彼は大学で学んだ学者ではなかった。イタリアのフィレンツェの山から出土する貝殻などの化石から、大地の生成と消滅の理論に興味を持つ。ダ・ヴィンチは30歳頃当時の文化の中心地であったフィレンツェに移り、そこで宮廷お抱えの技術者として様々な活動に従事する。その間も常に大陸の生成の過程を研究し、ミラノ近郊の化石を収集分析し、自らの説を確立した。

ダ・ヴィンチは『モナリザ』だけでなく『受胎告知』、『聖アンナと聖母子と小羊』などの背景にも大地の生成と崩壊のモチーフを使っているという。

ダ・ヴィンチは絵画だけでなく、科学者・技術者として様々な活動をした。彼の活動は一つのテーマに貫かれていた。人類は大地が水没しては滅亡するとして、それまでの間どうやったら自分は人類の役に立てるのか?だからこそ絵画の主題はキリスト教であったとしてもその背景には自分の主張を描いていた。ダ・ヴィンチから学ぶべきは、自らの頭で考え続けること、前例のない分野に挑戦すること、であろう。モナリザの背景はそのことを教えてくれる。

(恵比寿っさん 2017年6月13日)

「週刊文春」編集長の仕事術/新谷学著(ダイヤモンド社刊 本体1400円) 

著者は、大臣の首も取ることで“文春砲”などと恐れられる「週刊文春」の現役編集長。本書は、「人脈・企画・交渉・組織・決断・戦略など」、「すごい結果を出す 門外不出85の奥義」について「現役編集長が裏側を全公開」すると表紙にある。

本書の「はじめに」、「私が仕事術より大切にしていること」として、「人に会い、情報を集め、交渉し、わかりやすく伝え、人の心を動かす」という編集者の仕事は、「あらゆるビジネスパーソンに役立つはずだ」というのが本書執筆の依頼を受けた動機だと言う。

そしてあらゆる出来事を「おもしろがる気持ちがスキルやノウハウより大切だ」といい、みんなが、「それぞれのバッターボックスでフルスイングしてみようかという気持ち」になってもらいたいと言う。

1章「情報/人脈」は、「全てのビジネスは人から始まる」として、ゼロの状態から人に会い、キーマンにたどり着き、信頼を深めていって情報を入手するノウハウを語る。

2章「企画/発想」は、「予定調和はおもしろさの敵である」として、「おもしろがる」、「どうなるかわからない」から面白い、「どうなる」ではなく「どうする」かを考えて企画を立てるという。

3章「依頼/交渉」では、「難攻不落の相手からYESを引き出す」ために、「断られてからが仕事」で、どう相手の心を開かせるかを考える。そして「スピードが熱を生む。走りながら考えよ」という。

4章「組織/統率」では、「ヒットを生み続けるチームを作る」ために、「攻めるチームづくり」、「リーダーシップは信頼関係から」、「ネガティブなことほど早く報告させる」ことが必要だとする。

5章「決断/覚悟」では、「リスクを恐れず壁を突破する」ために、「論よりファクトで勝負」する、「白くする取材」を怠らない、判断の3要件は「正統性・合理性・リアリズム」だと言う。

6章「戦略/本質」では、「売れない時代のマーケティング」として、強いコンテンツで主導権を握る」、「ビジネスは対極と組む」、「幹を太くする投資」を重視する。

本書の「おわりに」、「私が顔を出さない理由」について、「向かうところ敵だらけ」で「狙われるのが怖い」からではなく、「誰々の週刊文春」になってはマイナスだからと言う。そして具体的に、2代前の花田編集長の時代は「花田さんの週刊文春」だったが、次の編集長で私(新谷)が一番好きだった設楽さんは苦労されたと語る。

ではなぜ実名で本書を書いたのか。執筆の動機は「はじめに」も書いたが、さらに言えば、時代は変わった。匿名のままでは情報の信ぴょう性が伝わりにくく、取材のプロセスも含めて「見える化」していかないと、記事そのものをなかなか信用してもらえない。そうした時代に相応し、読者との距離を近づけるためには、折に触れて、週刊文春の編集方針や取材・編集過程についても説明する努力が必要だと思っている、と語っている。

(山勘 2017619日)

政府はもう嘘をつけない/堤未果(角川新書 2016年7月 本体800円) 

著者は、「ルポ貧困大国アメリカ」、「沈みゆく大国アメリカ」、「政府は必ず噓をつく」など、とくにアメリカの政治と金の問題を追及している国際ジャーナリスト。現代アメリカの病弊は必ず日本にも及ぶという視点から、微温湯にどっぷり浸かって相変わらず平和ボケした日本人に警鐘を打ち鳴らす書である。

本書が書かれた時点ではまだトランプ大統領は誕生していないが、なぜ彼があれほど支持されたのか、本書を読むとよくわかる。オバマ前大統領は、当選したら最初に政治献金問題に手を付けるといったが結局は果たせず、1期目で大統領選挙史上最高の750億円、2期目は1000億円の選挙資金を集めたそうだ。ヒラリー・クリントンも同じ宣言をして出馬したが、彼女はその恩恵を最も受けた1人で、講演料が1時間2000万円にも上った。

そうした政治献金のほとんどは、GE、シェブロン、ボーイング、マイクロソフト、IBM、モンサント、インテル、ウォルマートといった巨大グローバル企業や関連団体、著作権・知的財産権団体で、オバマ大統領の2期目の就任式の最前列にはこれら大口スポンサーがずらりと並び、彼が誰のために働いてきたかが一目瞭然だった。

上限2500ドル(約52万円)まで献金した有権者は、その後「スーパーパック」と呼ぶ集金団体を通じて無制限に寄付ができる。問題は、2012年時点でスーパーパック全体の集金額の60%が、わずか132人の財布から出ていることだという。つまり、有権者の0.000042%が選挙結果を握り、1%の超富裕層と利益団体の政治資金がアメリカの政治を動かす。オバマケア法案を書いたのは大手保険会社の幹部、5000ページに及ぶTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を書いたのは国際企業弁護士で、アメリカはすでに国家としての力を失い、民主主義は崩壊し、超富裕層だけが潤う「株式会社国家」になってしまったと本書はいっている。

2016年4月、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が、パナマの大手法律事務所の内部資料1150万件を公開した。いわゆる「パナマ文書」である。これによれば、顧客情報の徹底秘密厳守が原則の「タックスヘイブン」(租税回避地)のパナマに、イギリスのキャメロン首相、中国の習近平国家主席、ロシアのプーチン大統領、アイスランドのグンロイグソン首相などが関係していることが明らかになり、アイスランド首相は公開前にこの事実を公表していたにもかかわらず辞任した。アメリカの資金で運営されているICIJの存在も微妙だそうである。

アメリカの税制を監視する非営利団体によれば、こうしたタックスヘイブンにある個人資産総額は最大32兆ドル(約3200兆円)、その75%が世界のトップ50銀行に集中しており、とくに1000億ドル(10兆円)単位になると、メリル・リンチ、シティグループ、モルガン・スタンレー、バンク・オブ・アメリカなど上位20銀行に集中し、今アメリカの政治を実質的に動かしているのはこうした金融業界だという。

ここに1兆1000億ドル(約110兆円)保管していると思われるアップル社などアメリカ多国籍企業への調査を止めるよう、欧州委員会に対して財務長官がアメリカ政府として要請したそうで、多国籍企業はアメリカの国会議員にとって大スポンサーであり、献金額に応じた「ギブ&テイク」がある。それに対してトランプは自前で選挙運動をし、今やアメリカは貧困層に冷淡だという、まさにこの点を突いて大衆の共感を呼んだわけである。

さらにトランプは、国内雇用を減らすという理由でTPPに反対したが、本書は、EU版TPPといわれるTTIP(環大西洋戦略的貿易投資連携協定)は、TPP以上にEU市場がアメリカ主導の多国籍企業の餌食になると断言する。つまり、インターネットの監視強化、教育、医療、水道などのインフラ民営化、過度な著作権保護強化、ヨーロッパの伝統的な農業の安全保障の危機、投資家の訴訟頻発などで、現にドイツのメルケル首相が福島原発事故を教訓に脱原発政策に方針を変えたら、スウェーデンの原子炉メーカーが訴訟を起こしたそうだ。

「世界一ビジネスしやすい国」として日本が進める「国家戦略特区」の実態も、規制緩和ではなく憲法や現行法に抵触しない外国人投資家向けの特区をつくり、市場原理を取り入れるというが、「特区」の本来は途上国が外国人投資家を呼び込むためのもので、日本では逆に格差が拡大するという。また、有利子奨学金などアメリカと同じ学資ローンビジネスが生まれつつあり、ここでもアメリカの悪影響が及んでいる。

日本の農業を強化するといいながら補助金を削り、セーフティネットを切って都合の良い数字だけを出す。農業専門家は、大手民間資本に農場を任せて所得倍増をはかると経済財政諮問会議はいうが、企業は採算割れになれば撤退するので国民の食料は賄えず、食の安全は保障されない。戦略特区で日本の農業は完全に解体されると警告する。

著者が会ったロサンゼルス・タイムスの記者は、「なぜ日本は、輸出すればするほどアメリカに特許料を支払う原発や高コストの武器を売ろうとするのか。それよりも日本が誇る農協や国民皆保険制度など、素晴らしい事業モデルを輸出したほうが賢明だ」といったそうだが、TPPや国家戦略特区の真実を伝えない日本のマスコミは勉強不足である。

「ジャーナリズムとは、報じられたくないことを報じることだ。それ以外のものは広報に過ぎない」。著者は本書で、イギリスの作家でジャーナリストのジョージ・オーウェルの言葉を引用しているが、この言葉はそのまま日本のマスコミにも当てはまる。

“総理のご意向”で話題になった文部科学省の内部文書の存在を明らかにした前事務次官の記者会見で、ある大手新聞の記者が「守秘義務違反ではないのか」と質問したという。本来なら権力がひた隠す機密情報をいかに表に出させるかが新聞の使命なのに、彼がどんな記者教育を受けたのかは知らないが、自ら御用新聞であることを認めてしまった。語るに落ちるとはまさにこのことで、国家の暴走を許した日本のマスコミは本当に“マスごみ”になった。

著者は、真実を見分ける方法として、資金源を調べる、つまり金の流れをチェックする、ニュースに「違和感」を覚えたら多方面から情報を集めて検証する、定期的にデジタル断食する、真の情報は少ないがまやかしは溢れていることを知ることだという。

四半世紀で結果が出なければ切り捨てる、今だけ金だけ自分だけという考えかたが世の中に蔓延している。現在の日本に問われているのは、あらゆるものをビジネスにし、国家が株式会社化する流れのなかで、ジャーナリズムの価値と知る権利をどう守るか。問題は天から降ってくるわけではない、人間が下手な選択をしたときは、良い決定で変えられる。世界情勢を正しく認識するために、知恵と知識の武装は必要である。日本人本来の価値観を再確認して目覚めた選挙をし、諦めずに前進しようと結んでいるが同感である。

(本屋学問 2017年6月20日)
 

 エッセイ 

クラウドファンディング 

玄界灘に浮かぶ唐津市の小さな離島で唯一の生活雑貨を売る店が、30年使っていた食品陳列用冷蔵庫が壊れてしまい、買い替える資金が90万円足りないので店終いするという話がインターネットで紹介されると、それを知った全国の人たちから寄付が集まり、新しい冷蔵庫を買って店を再開できたという話が新聞に紹介されていた。

過疎地の再生に熱心な九州の学生たちが呼びかけて、インターネットを通じて資金を集める「クラウドファンディング」が功を奏した結果だが、一昔前だったらこんな気の利いた情報伝達手段もなく、そのまま閉店せざるを得なかったかもしれない。島の名前は神集島(かしわじま)、まさに島民の神にも祈る気持が通じたわけである。

最近、この「クラウドファンディング」という言葉をよく聞く。慈善の寄付集めを始め、映画制作費や新事業開発費などの資金調達のために、インターネットを使って広く一般に出資を募るもので、この間大ヒットしたアニメ映画もこのシステムによって完成できたそうだ。日本にはあまり馴染まないシステムかと思っていたが、そうでもないらしい。

そんなことで、これまでは資金がなくて諦めていたいろいろなことに挑戦でき、ある意味では無限の可能性が生まれるわけだが、投資方式の場合は当然還元する義務があるだろうし、もしうまくいかなかった場合トラブルが起こりはしないか。また、これを悪用する不心得者も出てくるのではないかとよけいな心配もしてしまう。

確かに、一方でインターネットは、「ネトウヨ」や「ヘイトスピーチ」に代表されるように、まったく根拠のない偽情報を容易に信じてしまう低レベルの人たちを洗脳し、扇動するのにも利用されがちである。マスコミが捏造したり誤った報道のことを「フェイクニュース」というが、アメリカでも大統領選挙の行方を左右するほどの大問題になった。

“ネットサーフィン”といわれて四六時中インターネットばかり見ている連中は、基本的に自分が理解できないものや嫌いなものは排除するという、「教育」とはまったく無縁な環境にいるので、本質的に知識も教養も持ち合わせず、いってみれば勉強が嫌いで「引きこもり」になった問題児がそのまま大人になったようなものである。だから、幼稚で無知なために悪質なインターネット情報に簡単に騙されてしまう。あれだけ社会問題になりながら、相変わらずオレオレ詐欺に引っかかる老人も似たようなものである。

特定のインターネットサイトに一方的な書込みが集中して収拾がつかなくなることを“炎上”というが、実際には限られた数人の異常者が書き込んでいるだけで、これはあまり気にする問題ではないようだ。むしろ、そんなインチキ情報に惑わされない、健全な判断力を持つことが大事である。

あるテレビ局がインターネット上の商品情報をそのまま番組で紹介したところ、まったく架空のものだったとかで、この場合は番組スタッフが直接メーカーに確認すれば済むことで、どちらかといえば局側の責任だが、新聞やテレビの情報がどこまで正しいのか、私たちも相応の知識と教養が必要になってくる。

神集島のクラウドファンディングでは、72人から合わせて約102万円の寄付があったそうだ。「馬鹿と鋏は使いよう」とはよくいうが、ほとんど馬鹿しか見ていないインターネットも、うまく使えばこんな素晴らしいことができる。インターネットを利用する人のなかにも、見返りを求めない善意の人々がたくさんいることを知って安心した。

(本屋学問 2017年6月9日)

嘘か真か 紛らわしい時代 

ネットなどでウソ情報(フェイクニュース)を流布させ、“付着”してくるコマーシャル料で儲けることが罪にならないという奇妙な時代になった。「ポスト真実」とは、ヘタな信実?よりも、真実らしく見えるウソを流したほうが政治や政局で効果を上げ、それが通用するという奇妙な時代になった。

今国会では、学校法人「加計学園」の獣医学部の早期創設を促す「安倍総理のご意向」を示す文科省内部の文書を巡って、その存在が問われた。前川喜平前文科省次官が出てきて文書の存在を証言したが、その信ぴょう性が否定されたり人格批判まで受けた。その後、文書の存在は確認されたが、文書の示す「総理のご意向」が本当にあったのか“忖度”かはいまだに不明である。

話は変わるが、週刊文春と週刊新潮の“一騎打ち”が注目されている。週刊誌業界トップの週刊文春に対して、これを追う週刊新潮が、自誌の掲載記事を事前に盗み見された、スクープを盗用されたとして抗議した。週刊新潮側は、宣伝用の中吊り広告を、発売前日に書籍取次会社に納めているが、この中吊り広告を文春側が営業の参考にとか言って以前から入手していたという。

これに気付いた週刊新潮側が、週刊文春を、「スクープ泥棒」だとして「アンフェアな編集姿勢」を攻撃し、「中吊り広告を盗み見していた事実には何ら答えず、ただ、ネット上でこれからも独自スクープをお届けすると囁いた」だけだとして週刊文春編集長を追及した。これに対して。週刊文春の新谷学編集長は、朝日新聞(519)の取材に応じて、スクープ盗用を否定し、「他メディアの動向を把握することはある」が「情報を不正・不法に入手したり、盗用したことはない」と言っている。

たまたま今年3月、新谷学著『「週刊文春」編集長の仕事術』(ダイヤモンド社)が刊行された。同書の244頁におよそこんなことが書いてある。『池上彰さんのコラムを朝日新聞が掲載拒否した件では、同日発表の週刊新潮も同様の記事を掲載していることがわかったので、(週刊新潮より一日遅れで発刊する週刊文春の)校了日である火曜日の夜に、(週刊文春発売日前日に配信する同社のネット媒体である)「スクープ速報」(でその池上問題ニュース)を配信した』(カッコ内は私・山崎による補足)。そして、新谷氏は「デジタル上の戦いでは締め切りがない分、タッチの差が勝敗を分けるのだ」と言う。週刊新潮が池上問題を掲載することをどういう経緯で新谷氏がキャッチしたのかは説明されていないが、「タッチの差」を争う敏腕編集長が、この件でもこれまでも週刊新潮中吊り広告に“反応”してこなかったとは思えない。しかし「ファクトで勝負する」(同書)文春の関係者が、一様に口を閉じて真実を語らない。

前川前文科省次官の証言については、なぜ現役時代にそれを言わなかったのかという非難の声が上がった。しかしそれはすなわち「内部告発」であり、それをやれば、まず左遷されたり仕事を干されたり、退職後の再就職も難しくなったりする。官僚も会社員もみんな怖いのだ。

そこで提案だが、退役後に、所属していた会社や組織の不正や真実を告発することを卑怯未練だなどと非難するより、これからは大いに奨励したほうがいい。この「事後告発」の手続きをルール化するなり法制化するのがいい。それが嘘か真か紛らわしい時代になった今日の社会状況を正すための、けっこう有効な手段となり得るのではないか。

(山勘 2017619日)